NOT A HOTEL DAO×アビスパDAO【特別対談】|“別荘の民主化”と“市民クラブの革新”が交差するWeb3の次章

こんにちは。NOT A HOTEL DAOの青山奈津美(@Natsumi Aoyama_X)です。
今回は特別企画として、NOT A HOTEL DAO代表取締役の渡邉と、アビスパDAO のWeb3事業開発責任者 神野嘉一さんとの対談をお届けします。

「サッカークラブ」と「ホテル(宿泊施設)」——。 
一見まったく異なる業種でありながら、共通点は“DAO”という新しい仕組みを活用し、事業に取り組んでいること。

それぞれのDAOを牽引する事業責任者同士が、DAO化に至った経緯や現在の取り組み、そして今後の展望について語り合いました。

DAOを活用して、どのようにして新しい事業の形をつくっていくのか。
そのリアルな挑戦と、これからの可能性を探る対談の模様をお届けします。
※本対談は2025年7月23日に実施しました。
渡邉亮:NOT A HOTEL DAO株式会社 代表取締役CEO(@Ryo Watanabe X)
神野嘉一 :アビスパ福岡 Web3事業開発責任者(@Yoshikazu KONO X)

「別荘の民主化」から始まった。NOT A HOTEL DAOが描く、新しい資産の形

渡邊:本日はDAO同士、そして事業責任者としての視点を交えた貴重な対談の機会をいただき、非常にワクワクしております。よろしくお願いします!

神野:よろしくお願いします!NOT A HOTEL DAO株式会社。DAOと株式会社という組み合わせに意外性があり、そこがまた良いなと感じます。事業として、どのようなことに取り組んでいるか、教えていただけますか?

渡邉: はい。まず、NOT A HOTEL DAO株式会社は、NOT A HOTELという会社の100%子会社です。

NOT A HOTEL自体、ご存知の方も多いかもしれませんが、「世界中にあなたの家を」というコンセプトで、特別なロケーションに特別なクリエイターがデザインした「別荘」を様々な場所に展開しているサービスです。

通常、別荘を購入すると1年間365日分の所有権を得ることになりますが、それを年間10泊からという形でシェア購入できるビジネスを行っています。

神野: NOT A HOTELという名前からはホテルのイメージが強いですが、物件としては別荘に近いんですよね。

渡邉: はい。基本的には年間10泊分から所有していただくサービスです。オーナー(物件の購入者)の方は使用しない日をホテルとして貸し出すことで収益を得て、その収益で物件の管理費を賄うことが可能です。

このように、ホテルでもなく、純粋な別荘でもないということから「NOT A HOTEL」と名付けています。

そしてNOT A HOTEL自体は10泊単位での購入がメインですが、これを1泊単位で、さらにブロックチェーンの技術を使って細分化し、利用権という形でユーザーの皆さんにお届けするサービスをNOT A HOTEL DAOで展開しています。

神野:非常に考えられていて面白いと感じます。やはり、10泊だと購入が難しいという方が多かったのでしょうか。

渡邉:そうですね。私たちのサービスは、一つ一つ本当に有名なクリエイターの方々とタッグを組ませていただいています。このため、高額な物件となることが多く、主に富裕層と呼ばれる方々が顧客層となっています。しかし、それを1泊単位で利用できるように小口化・流動化することで、より多くの方に手に取っていただけるようになります。

神野: 1泊単位にすることで、より多くの方が手に取りやすくなる、と。まさに「民主化」ですね。

渡邉: はい。「すべての人にNOT A HOTELを」というミッションを実現するための仕組みです。

神野:民主化の対象範囲の広げ方として非常に参考になります。事業自体はいつ始められたのですか?

渡邉:Web3事業という意味では、2022年のいわゆるNFTバブル期です。NOT A HOTELを毎年1泊利用できる会員権をNFTとして販売し始めました。

それをさらに拡張させ、NOT A HOTEL自体を「みんなで所有、みんなで利用」するという方向へ進化させるため、昨年12月に発行したトークンをIEO(Initial Exchange Offering)し、DAOの仕組みを開始しました。

神野:その都度大きな話題になっていますよね!Web3界隈ではビッグネームでいらっしゃるので、改めて今回対談できて本当に嬉しいです。

渡邉:ありがとうございます!2022年当時は、本当に多くのNFTプロジェクトがありましたが、その中でも大きなニュースとして取り上げていただきました。NFTの仕組みと、ホテルの物件利用権という部分がうまくマッチしたのかなと感じています。

ホテルは、いつどの部屋が空くか事前にわからないという点があります。それを「偶然を、旅する日に」というコンセプトを掲げ、あえてランダム性を打ち出したことが、絶妙なバランスで、ちょうど良い塩梅だったのだと思います。

神野:その点は色々な反応があったのをよく覚えています。完全にランダムなんですね。

渡邉:はい、ランダムです。物件の耐用年数である47年間、毎年同じ日付で場所はランダムという形です。例えば今年はこの日は泊まれないとなった場合は、NFTの特性を活かし、その権利を二次流通させることができます。

このNFTの仕組みは、物件の数と発行NFT数のバランスが非常に重要になります。オーナーの方が増えていく一方で物件が増えなければ、空室がなくなってしまいます。

その状況でNFTを発行することは難しいため、今度はIEOを行い、暗号資産で資金を調達しました。調達した資金を活用して、NOT A HOTEL DAO株式会社が物件を購入します。そうすると利用できる部屋数が増えるので、それを我々の暗号資産(NOT A HOTEL COIN・$NAC(ナック))を持っている方へ還元していく、ということを実現したかったのです。

神野: このIEOモデルに至る取り組みが本当に格好良いですよね!IEOも調達目的が明確で、その使途が物件という形になって現れる、RWA(Real World Asset)という概念なので、投資する側にとっても安心感があります。

アビスパ福岡が今後IEOする展開になったら、堂々と参考にさせていただこうと思っています。そうすると、DAOを始められたのは昨年末ということですね。

渡邉: 構想自体は一昨年からありましたが、実際に20億円調達の公募を行ったのが昨年の秋頃です。そして12月に調達が完了し、そこからサービスを開始しました。

90秒でわかるNOT A HOTEL DAO

クラブ消滅の危機を乗り越えて。アビスパDAOがWeb3に託す「市民クラブ」の未来

神野:アビスパDAOとしてWeb3を始めたのは2021年です。FiNANCiEでアビスパトークンを発行したのですが、Jリーグでは湘南ベルマーレさんに続いて2例目だったと思います。当時は「新しいクラウドファンディング」という感覚で導入したと聞いています。

FiNANCiEでの初回トークン発行画面

その後私がフィナンシェ社に入り、コミュニティの目的をきちんと掲げ、クラブとしても事業に繋げるという両面を整理して進めるべきだということを、クラブに提案しました。

その提案が受け入れられ、2023年に「DAOにします」と宣言し、アビスパDAOをスタートさせました。DAO構想に共感してくれる方向けへのトークン追加発行も実施し、参加を呼びかけました。

その後私がアビスパ福岡に加入したタイミングで、クラブとしても本格的にWeb3の事業化とDAOの拡大に取り組むようになり、DAOメンバー数も増えてきているという状況です。

渡邉:トークンを発行した当時は、コミュニティをさらに形成し、育てていくという点に課題感があったのですか?

神野:リアルな課題感としては資金面です。トークンを発行した2021年当時は、どのクラブも新型コロナウイルスの影響で、「スタジアムに観客が来なくても収益を得る手段」を模索していました。その一つとして新しいWeb3サービス・FiNANCiEに着目し、新しい支援の形としてスタートしたようです。

さらに遡ると、私たちのクラブは約10年前に一度クラブ存続の危機がありました。特定のスポンサーに依存した経営が破綻し、その反省から「みんなで支えよう」という市民クラブ的な性格が強くなったんです。この時から分散型に近い構造が生まれたと言えますね。

渡邉: なるほど、そういった歴史があったのですね。

神野: はい。そしてJ1に定着した今、J1の中でもトップクラブになるために、大企業が連結対象の親会社として支える資金力豊かな現在のトップクラブとどう戦うか、という課題に直面しています。市民クラブの我々は従来型のビジネスだけではなく、新しい事業の柱が必要なんです。その一つとしてWeb3を位置づけ、事業化を目指しています。

渡邉: クラブにとって救世主になり得る、と。

神野: まさに。金融包摂のサービスを構築できるWeb3は、大きなお金を動かせるという魅力的な側面もあります。先日、SMBC(三井住友銀行)さんとのパートナーシップを発表しましたが、パートナー企業の期待のなかには、私たちが現在のFiNANCiE上のトークンからさらに発展し、グローバルに資金調達できるような仕組みを構築することもあると感じています。

そうした可能性を、事業の中にどう組み込み、実現させていくか。そのためには様々なステークホルダーの理解を得る必要があり、まさに今、そのステップを進めていこうというタイミングです。

市民クラブという構造も分散型に近いですし、サッカー界には移籍金が発生する際に育成クラブにも還元があるという仕組みがあり、これもWeb3の「貢献者に還元する」という思想との共通性があります。つまり我々のようなJリーグクラブは、Web3を”事業に活用”する新しいユースケースを、最も作りやすいポジションに居るわけです。そこに大きな可能性を感じながらWeb3の事業化を推進しているところです。

渡邉: 私たちも、Web3はNOT A HOTELという事業をさらに多くの人に届けるための「手段」と位置づけています。Web3が事業の中心というより、本業を補完し、ミッションを実現するために活用している。その点はアビスパさんと同じかもしれませんね。

7,000人のコミュニティ、どう育てる?ユーティリティ設計のリアルな悩み

神野:アビスパDAOのメンバーは現在約7,000人弱。有料ファンクラブの会員数を既に上回っています。この成長曲線はWeb3のネットワーク効果ならではだと感じています。

渡邉:ファンクラブは伝統的な形でどのクラブにもあり、チケットを先行購入できるなどの特典がありますよね。既存のファンクラブと、トークンホルダーのコミュニティとのユーティリティ(特典)の設計は非常に難しいと思うのですが、どのように棲み分けをされているのでしょうか。

神野: ファンクラブは基本的に、スタジアムでの観戦体験を高めるための特典を提供する制度です。従って加入者はスタジアムに来場できる方が中心になります。このファンクラブの制度や仕組みはスポーツ業界でだいぶ完成されていて、ここをいじるのはナンセンスだと考えました。

そこでDAOではファンクラブ制度とは一線を画し、観戦以外の部分で楽しめるユーティリティを設計しています。現在は、選手とのzoomミーティングやサインアイテム抽選参加権、クラブの公式グッズ共創プロジェクトの参加権など、スタジアムに来られない方でも楽しめるものを中心に提供しています。

なかなか現地に行けないDAOメンバー向けにも特典を提供しています。例えば今季は福岡グリーンホテルさんにご協力いただき、宿泊特典を提供したりしています。福岡出身で東京に住んでいるような方もDAOに参加していることを想定し、その方々が喜ぶユーティリティを提供したいという思いからです。

こうして徐々にサッカーファン以外も嬉しいユーティリティを増やすよう工夫しています。

渡邉:
ホテル宿泊特典は面白いですね。スタジアムでの試合前後に宿泊できれば、福岡観光にも繋がって非常に良い効果がありそうです。

神野:最近は福岡のホテルも高騰しているので、福岡に遠征してくる方は躊躇するかもしれない。そうした際にぜひ使っていただきたく、提供しています。

渡邉: 私たちも、NOT A HOTELのオーナーというコミュニティがある中で、NFTや暗号資産を始めました。やはり、NOT A HOTELに泊まるという体験を求めている方が多いので、まずは体験しやすい形(細分化・小口化)から始めています。

ただどうしても供給量の面で制約があります。物件が開業するまでには2〜3年かかりますが、トークンホルダーが増えるスピードの方が全然速い。ですので、宿泊以外のユーティリティ開発や、保有していること自体の価値を高めていくことが、まさに今取り組んでいることです。

神野: 物件の完成を待たずにトークンホルダーに特典を提供しなければならないのは、NOT A HOTELさんならではの、リアルな悩みですね。

渡邉: はい。現在、NOT A HOTELの暗号資産($NAC)を使って泊まろうとすると、通常、約10万円ほどの資金が少なくとも必要になりますが、この夏から秋にかけて、数千円でもっとライトに、NOT A HOTEL DAOのコミュニティへの参加を実感できる体験などを提供していこうと構想しているところです。

神野:今日この収録をさせていただいている場所は、NOT A HOTELさんのラウンジですよね。

収録場所のNOT A HOTEL CLUB HOUSE ASAKUSA

渡邉:はい。ここは普段、NOT A HOTELを購入いただいたオーナーの方のみが使えるラウンジです。今回は特別に収録用として利用させていただきました。普段、オーナーの方はこのテーブルにて、グループ会社である運営会社(NOT A HOTEL MANAGEMENT)の社長であり、ミシュランスターの経歴を持つ料理人である林による本格的な中華料理をお楽しみいただけます。

神野:宿泊以外の空間や、そういった料理のようなサービスの提供もされているのですね。そのあたりの体験も、ユーティリティとして提供できそうですね。

渡邉:はい、そう考えています。

神野:せっかくのDAO同士ですので、お互いのアセットを組み合わせて何かできたら面白いかもしれませんね。

渡邉:そうですね!NOT A HOTELは福岡にもありますし。

DAOの未来:意思決定の鍵はどこに?「スタジアムシティ」と「DAO専用ホテル」

渡邉:現在、DAOとしての活動はどのような状況でしょうか。例えば、アビスパDAOでは積極的に活動してくださる方を「モデレーター」に任命し、クラブと定期的に打ち合わせを行っていると伺いました。

神野:そうなんです。コミュニティの方針について議論したり、DAOメンバーから寄せられたクラブへの提案についてモデレーターの皆さんの意見を聞いたり解決手段を検討する場を設けています。

渡邉:NOT A HOTEL DAOは、まずはサービスを軌道に乗せ、認知を広げるために各地で各種イベントを行うなど、NOT A HOTEL DAOの社員側からの働きかけが中心です。

今後は、全国各地の拠点近くでNOT A HOTELやNOT A HOTEL DAOを広めていただくアンバサダーのような方を募集し、報酬として$NACをお渡ししたり、イベントを自発的に手伝ってくださる方にベネフィットを提供したりといったことをやっていきたいと考えています。

神野:私たちはアビスパトークンを持っている人は全員DAOメンバーです、という立て付けにしていますが、NOT A HOTEL DAOへの参加は、$NACを購入することで可能になる、という形でしょうか。

渡邉:私たちはDAOメンバーではなく「NACホルダー(ナックホルダー)」と呼んでいて、$NACを購入したら「あなたはメンバーです」と積極的に境界線を引いているわけではありません。NACホルダーとして私たちのサービスを使っていただいている方を、緩やかにメンバーとして捉えているという感じです。

神野:$NACホルダーで、かつ参加したいと表明した方が、DAOの活動に参加できる、という形ですかね。

渡邉:そうですね。$NACを持っていないと参加できないイベントやコミュニティを作っています。私たちの課題は、まだホルダー起点で活動を作ったり、コミュニティ運営に携わってもらったりという部分が少ない点です。その点でアビスパさんは進んでいらっしゃるなと、noteを拝見して感じていました。

神野:noteで発信していて良かったです(笑)

渡邉:今、アビスパDAOのメンバーは7,000人と仰ってましたが、分布はどのようなイメージですか?コアな方とライトな方など。

神野:元々クラブのサポーターで、DAO化する前からトークンを購入してくださった方と、DAO化のタイミングで「アビスパに興味はなかったけれど、DAOには興味がある」と参加してくださった方。この2つのタイミングで入ってくださった方が、現在のコア層だと捉えています。

また、私たちのDAOの正式名称は「アビスパ福岡 スポーツイノベーションDAO」で、「みんなで福岡で新しい価値を生み出そう」といったビジョンを掲げています。

例えば、今はSMBCさんと一緒にアカデミーの選手を支援し、その中からトップ選手が生まれれば支援者に還元がある、という仕組み作りをしていますが、このプロジェクトに興味がある方はトップチームを応援する層とは少し違いますよね。どちらかというと、アマチュアスポーツが好きな層や、「推し活」に近い感覚で参加される方もいると思います。

今後はこういったプロジェクトをきっかけに「福岡がもっと良い街になる」ことに共感し、活動に参加いただける方を増やし、新しいコア層に育てられればと考えています。

渡邉:たまたま同じ規模感なのですが、私たちの暗号資産$NACを保有している方も全体で約7,000人超いらっしゃいます。

ただ、そのうち実際にホテルのサービス利用のためにアプリ連携をしている方は、2,400〜2,500人程度です。ですので、暗号資産として保有しているのみの方もかなり多い状況です。

この2,500人という数字は、サービス開始当初の数百人からじわじわと伸びてきていて、半年ほど運営している現在は、非常にコアな方、何度もイベントに足を運んでくださる方も出てきて、大変嬉しく思っています。

神野:ファンのような存在ですね。

渡邉:そうですね。NOT A HOTELのイベントがあれば毎回参加してくださる方がいらっしゃいます。私が見る限り、Web3界隈の方よりも、純粋にNOT A HOTELが好きで参加されている方が多いのが面白い点です。ただ、スポーツと違って宿泊は個人で楽しむものなので、コミュニティとしての熱量を作っていくのは、これからの課題だと感じています。

神野:アビスパDAOの場合は、ファンコミュニティではないと明確に伝えています。目的は「共創型のイノベーションで福岡をもっと良くする」ことです。NOT A HOTEL DAOとしても、そうしたビジョンを掲げて活動していくのか、それともRWA的なトークンなので、ガバナンス的に運営に関与できるようにしていくのか、大きく分けてどちらの方向性をお考えですか?

渡邉:やはり、かつて車や飛行機が富裕層しか利用できなかったものが民主化されていったように、NOT A HOTELという別荘・新たなライフスタイルを一般の方が手に届くようにするという会社のミッションはぶらさずにいたいです。その中で、DAOらしさを作っていきたいと考えています。

サッカークラブの場合、DAOメンバーが関与できる領域として、どういう領域が考えられますか?

神野: 私たちは、DAOはファンコミュニティではないと明言し、「選手獲得」のようなサッカークラブとしての事業面には関与できない、というようにガバナンス面でも線引きをしています。

アビスパDAOのガバナンスモデルの図


そのうえで、クラブの新しい事業領域である「地域と一緒に価値を創る」部分を、みんなでやりましょう、と伝えています。例えば、将来的に新スタジアムを中心とした街づくり「スタジアムシティ」計画がスタートすると仮定した場合、「このエリアにコンビニと保育園、どちらを作るか」といった意思決定に関わっていただくことは可能になるかもしれません。

渡邉: 面白いですね。事業本丸の意思決定は難しいけれど、新しい事業創造の領域で参加の余地を作る、と。私たちも、物件のクオリティは担保する必要があるので全てを民主的には決められません。しかし、例えばクリエイターが絞った選択肢の中から、飾るアートを選んでもらう、といったことは模索しています。

神野: まさに「みんなで作る」感覚ですね。

渡邉: はい。将来的には、既存オーナーの方向けのホテルとは別に、DAO専用のNOT A HOTELを作り、そこではもっと実験的な意思決定を可能にする、といったアイデアも考えられます。

神野:我々も先ほどお伝えしたとおり、本丸のサッカークラブとしての意思決定への関与は難しいので、新しい事業創造、例えば将来的なスタジアム起点の街づくりといった領域で、皆さんに参加していただく余地をどう作るか、という方向で考えています。

渡邉: 私たちの事業でも、物件の周辺体験も一緒に作るというのは力を入れているところです。

例えば、7月に開業した石垣の物件は開業物件の中でも最もグレードが高く、長期滞在される方が多いです。そうなると、ホテル内だけで楽しむのではなく、周辺の体験も重要になります。そこで、NOT A HOTELとして2025年2月に「Destination Experiences」チームを発足し、地元の事業者の方々と一緒に開発を進めています。

神野:サッカーもスタジアム観戦という体験が中心ですが、最近は長崎などスタジアムを中心とした街づくり・スタジアムシティ計画として進めるプロジェクトも増えています。スタジアムの周辺は色々と展開の余地がありますね。

渡邉:宿泊という点でコラボレーションできるといいですね。

神野:そうですね!福岡は宿泊施設が足りないというリアルな課題もありますし、せっかくDAOでアイデアを出し合いながらやるのであれば、DAOだからこそできたスタジアムシティ、というものがあっても良いのではないかと思います。

そして、Web3には、そうした壮大なプランに投資してくれるお財布があるというのも強みです。クラブがリスクを取ってこうした取り組みを行うことには、大きな意味があると感じています。日本にもビットコインで資産を築いた方は多くいると思いますが、その資産の使い道として、まだ十分な受け皿がないようにも感じます。

渡邉:そうですね。

神野:御社のように、Web3に接続されていて、かつラグジュアリーな時間を過ごせる場所への投資は、すでにそうした方々の投資対象になっていると思いますが、サッカーでもそうした余地を絶対に作れるはずです。

世界的なビッグクラブにはパトロンが大勢います。それを日本で、従来のお金持ちというよりはWeb3で富を築いた方々と一番繋がっているのがアビスパ福岡だ、というような状況が作れたら世界的にも注目される、面白いモデルになりそうです。

渡邉:サッカークラブはどこまでいっても地域に根差していると思いますが、その地域の方々との繋がりと、グローバルを含めたクリプト界隈の方々との繋がりが混ざり合うと、非常に面白そうですね。

神野:本当にそう思います。最近はアリーナやスタジアムの建設計画が非常に多く、従来型のやり方では税金が使われることが多いため、住民の反対に遭うケースも増えてきています。

そんな時に、御社がやられているように「夢のある施設を作るので、賛同する方は投資として参加してください。利用権などでお返しします」といった形は、有効な選択肢になり得ると考えています。

渡邉:私たちのプロジェクトは、まだ「DAO」としっかり言えるほどDAO化は進んでいませんが、その名前に込めた思いは、将来的に日本の魅力的な地域の方々に、例えば土地を提供していただいたら、その対価として$NACをお渡しし、その方々に$NACを使ったユーティリティ、つまりNOT A HOTELで利用していただく、といった形で、協力者の方々と一体となったエコノミクスを地域に作り、その価値を上げていくということです。

実際に、最初の物件である宮崎の青島では、NOT A HOTELができてから2年連続で青島市の地価が顕著に上昇しました。

神野:そうなんですか!それはまさにNOT A HOTELの効果でしょうね。

渡邉:
一定の関係はあると考えています。こうした事例を日本中で増やしていくことは、NOT A HOTELが新たに掲げるミッション「日本の価値を上げる」にもつながるはずです。そのためにも、DAO的な価値観や仕組みは重要な鍵になると思っています。

神野:それは楽しみですね。

渡邉:はい、ぜひやっていきたいです。

DAOが一般層に浸透するために。NOT A HOTELとアビスパのアプローチとは?

渡邉:私たちは、比較的わかりやすい説明を心がけています。例えば、NOT A HOTELのコインを預けることで宿泊権がもらえる仕組みを「株主優待のようなもの」などと、一般の方に馴染みのある言葉に置き換えて説明しています。もちろん、暗号資産なので直接的な勧誘ができないなど、様々なルールの中で行っています。

もう一つは、やはりこの暗号資産でしか得られない体験や購入できないものをきちんと作っていくことです。「あれを買うためにはこれが必要だ」となれば、人は動くはずです。そこを開発していくことが重要だと考えています。

神野:先ほど7,000人の方が$NACを保有されていると伺いました。その数字についてはどう評価されていますか?

渡邉:IEO直後と比較しても伸びているので、認知は広がってきているのかなと思います。ただ悩ましいのは、サービスを使ってくれている二千数百人の満足度を上げていくことと、さらに世界を広げていくことをどうやって両立させていくか、という点です。

神野:なるほど。七千人のうち二千数百人しかサービスに接続されていないということは、多くは純粋な投資対象として見ているということですね。

渡邉:それはそれで長期的なプロジェクト展開に期待していただいていると見ることもできますし、流動性を生むという意味でも良いことだと考えています。

神野:$NACの場合、価格は比較的安定していますよね。

渡邉:はい。それをメリットに感じる投資家もいると思います。また、私たちのサービスの中には、保有しているだけで宿泊権が当たる抽選に参加できるものもあります。1万円分ほど保有していれば、毎月5名様に宿泊券をプレゼントするというサービスを6月から始めており、こうした取り組みが裾野を広げることに繋がってきている実感があります。

神野:いいですね。私たちは、共感者や貢献者にトークンをプレゼントすることで裾野を広げようとしています。福岡を良くするプロジェクトに参加してくれた方、例えばイベントに来場してくださった方に、アビスパDAOの独自トークン・アビスパトークンをお渡ししています。

渡邉:私たちも似た取り組みは始めています。$NACを各種のコミュニティイベントでの景品にするなど、そういった形です。

御社も、まだ認知を広げていきたいフェーズということでしょうか?

神野:そうです。そして参加者の多様性を生み出したいと考えています。プロジェクトごとに興味を持つ人や熱量が高まる人は多様だと思うので、プロジェクトのテーマに合わせて相性の良い人をどんどん巻き込んでいきたいです。

渡邉:そのプロジェクトのテーマは、トークンホルダーが提案して決めるのですか?

神野:そこは今、まさにモデレーターの方々と議論しているテーマです。これまではクラブ側が主導してサービスを提供する形が多かったのですが、DAOメンバーから「もっと意思決定に関与したい」という声も上がってきています。

私自身もDAOのガバナンスを進化させるトリガーとしてそういった反応を待っていた部分があります。DAOメンバーから声が上がり、モデレーターの方々もそれに賛同する雰囲気が出てきたこと、そしてクラブ社内でもDAOに任せても良いのではないかという雰囲気が醸成されてきたことが重なり、ガバナンス構造を見直すには、今が良いタイミングだと感じています。

渡邉:事業としての安定性とDAOらしさのトレードオフは、本当に難しいですよね。

神野:はい。まずは事業の安定性を優先し、クラブ側のハンドリングを強めにスタートしましたが、これからはその権限をもう少しDAOメンバーに委譲していこうと考えています。

渡邉:アビスパDAOのモデレーターの方々は、当初からいらっしゃったのですか?

神野:はい。DAOの指導後は基本定例会に毎回参加していただいているので、約2年ほど一緒に議論や取り組みを重ねてきました。本当に心強い存在です。NOT A HOTEL DAOとしては、毎回イベントにいらしてくださるような方が、モデレーター候補になるのかもしれませんね。

渡邉:そうですね。

対談を終えて

━━━ 「アビスパ福岡」と「NOT A HOTEL DAO」。

渡邉:これまで自分の事業にひたすら向き合ってきたので、こうして神野さんとお話しさせていただくことで、自分たちの立ち位置を相対的に考えることができましたし、非常に勉強になり、面白かったです。ぜひまたお話ししたいです。話すたびに色々なアイデアが出てきそうですね。

神野:次はもっと具体的な提携のアイデアなど、より深いところまで話せたら嬉しいです。

渡邉:はい。ありがとうございました!

神野:ありがとうございます。Web3界のビッグネームであるNOT A HOTELさんと対談でき、本当に光栄でした。こうして機会をいただき、特に自社でしっかりとWeb3事業を構築されているNOT A HOTELさんのこれまでの成り立ちなどを伺うことができました。そして何より、向かっている方向性に多くの共通点があることを知れたのが大きな収穫です。

この対談で終わりにはしたくないので、継続的にお話しさせていただき、できれば一緒にプロジェクトも実行できたらと思います。ぜひ、今後ともよろしくお願いします。

渡邉:こちらこそです。本日はありがとうございました。

普段なかなか交わることのない組み合わせですが、「DAO」という共通のテーマで、自分たちの事業をこれまでと異なる角度から見つめ直すきっかけになりました。

アビスパ福岡の神野さん、対談に立ち会っていただいたアビスパDAOブランドコーディネーターの山本さん、そしてアビスパDAOコミュニティの皆さま、心よりありがとうございました!

私たちNOT A HOTEL DAOは、「すべての人にNOT A HOTELを」というミッションのもと、ホルダーの皆さまと共に、新たな体験価値を創り続けていきます。
今後の展開にも、ぜひご期待ください!

スピーカープロフィール

渡邉 亮
NOT A HOTEL DAO株式会社 代表取締役 CEO

東京大学法学部および英国ウォーリック大学大学院(MBA)卒。日本銀行にて経済調査やIT中期計画策定に従事したのち、アクセンチュアにて金融・通信業界を中心に戦略コンサルティングを経験。大手通信会社におけるWeb3新規事業推進を経て、2025年1月よりNOT A HOTEL参画。

神野 嘉一
アビスパ福岡株式会社 Web3事業開発責任者

2006年スポーツ業界に特化したWeb制作会社(株)スポーチュアを創業。プロ野球・Jリーグをはじめ多数のプロスポーツチームの公式メディア構築運営プロジェクトに参画。2017年(株)スポーツマーケティングラボラトリーとの経営統合に伴い取締役に就任。2018年(株)スポカレを共同創業し取締役に就任。2022年執行役員・スポーツ事業責任者として(株)フィナンシェに入社。2024年よりアビスパ福岡Web3事業開発責任者に就任。